厚生労働省の調べによると、日本人の平均寿命は2019年の段階で、男性が81.41歳、女性が87.45歳です。
男性は8年連続、女性が7年連続平均寿命の過去最高を更新しており、現在のペースで伸び続けると、100歳を超えるまで生きるのもそれほど珍しいことではなくなりそうです。
長生きすること自体はポジティブな印象を受けますが、「老後」が長くなると考えると不安な一面を覗かせます。
人生100年時代を迎えたとき、ライフスタイルはもちろんのこと、長い老後を生き抜くため、どのように生活資金を確保すればよいのか考える必要があります。
人生100年時代と聞いて、どう感じますか?
長寿化といえば、病気や衰弱、認知症、医療費の増大、社会保障の危機など、暗い話ばかりで、多くの人が、長寿に対してマイナスのイメージをもっていると思います。
老後のことなど考えたくもないというのが本音といったところでしょう。
長寿化は、人生にとってマイナスでしかないのだろうかと少しだけ立ち止まって考えてみよう。
平均寿命は大幅に伸びており、長寿化は確実に進んでいるといってもよいだろう。
ある統計によると先進国で生まれる子どもは50%以上の確率で105歳以上生きるといわれています。
ちなみに1世紀前では105歳まで生きる確率は1%に満たなかったともいわれています。
平均寿命は10年に2年以上のペースでゆっくりと着実に進んできているのです。
今の20歳の人は100歳以上、40歳の人は95歳以上、60歳以上の人は90歳以上生きる確率が50%以上もあるのです。
休みなく働き続けて、退屈な日々を過ごし、最後には貧困と後悔の老後を迎えるとしたら、長生きしたくないと感じることでしょう。
しかし、そう思っていても、確実に長寿化が進行する世の中に生きているのです。
長寿化に伴い、多くの人は今よりも長い期間働くことになるが、呪われたように仕事に追いまくられ、疲弊させられるような未来を避け、長寿化は憂鬱ではなく恩恵と感じることができる方法はあります。
年齢や性別に関係なく、より自分らしく生きることができるようになるのです。
従来の「こうあるべきだ」といった固定概念は長寿化の時代は通用せず、より自分らしく、より自由に生きるための選択肢がこれから増えてくるのです。
このように考えると、少しワクワクしてこないでしょうか?
長寿化によって、増える時間を有意義に過ごすために重要になることは、人生をどのように組み立てていくのかという点なのです。
人生100年が当たり前の時代になる
国連の推計によれば、2050年までに、日本の100歳以上の人口は100万人を超える見込みとなっています。
自分が想像している以上に長寿化が進み、人生のさまざまな決定の基準にしている生き方のお手本になるような人(ロールモデル)よりも長い人生を送り、社会の習慣や制度がもはや役に立たなくなるといえます。
たとえば、65歳まで働いて、年金をもらって老後を過ごすといった過去のロールモデルは長寿化の時代では持ちこたえられず、役立たないものになります。
つまり、過去の成功例や、それに基づいた価値観のままで今後の人生を送ろうとするならば、長寿化は恩恵では憂鬱なものになるでしょう。
勘違いしないで欲しいことは、長寿化がただ老いて衰えて生きる年数が長くなることではなく、若々しく生きる期間が長くなるということなのです。
今の70代は20年前の70代よりも健康であり、今の子どもたちが70代になる頃はもっと健康的な日々を過ごすことになるでしょう。
長寿化は、人生の終わりの準備だけをイメージしがちになりますが、実際には長寿化に備え、人生全体を再設計しなければならないところまで変化することを求められているのです。
お金の心配を減らすための考え方とは
お金に苦手意識を持つ人へのアドバイス
人生100年をまっとうに生きようと思ったら、お金の問題は避けて通れません。
しかし、長期の資金計画がイメージできなかったり、考えることそのものが不得意であったりする人は多いと思います。
金融に関する専門用語は多いので、知識を得ようにもハードルが高く感じてしまい、また、資金計画を立てたところで、すぐに恩恵を実感できるわけでもありません。
未来の自分がどうなるのか思い描けないのに、お金についての計画が立てられるはずもありません。
しかし、お金の問題は、正面から向き合う必要があるのです。
仕事を引退した人を対象にした調査によると、約70%の人がもっとお金を貯めておけばよかったと後悔しています。
後悔することがわかっていても、お金に対する苦手意識ばかりが先行して、お金を貯めることができないかもしれません。
80歳になって後悔しても、その時点でやり直すことはほぼ不可能ですが、いまの時点であれば考え直し、やり直すことは可能なはずです。
人生100年時代を生き抜くために必要なお金の考え方のポイントは次の3点です。
・お金の現実を直視すること
・お金に関して自信を持つこと
・お金に関して自ら取り組むこと
お金の現実から直視すること
人生100年時代では65歳定年とするならば35年に渡る老後が待っています。
金銭面ではどんなに節約しても支給される年金だけでは不十分で、相当の貯蓄が必要になります。
また、不確定要素が多いため、適切な資金計画を立てることは難しく、ときには痛みを伴います。
こういうときにお金の現実から目を背け、以下のような安易な解決策に納得してしまわないように注意しなければなりません。
・引退後は最終所得の50%程度のお金があれば生活していけると楽観する
・マイホームの資産価値を頼りに資金調達ができると当てにする
・積極的に投資をすれば投資効率を高めることができると考える
少しでも納得しかかったとしたら、長い人生の資金問題を解決できない可能性が高くなるので注意してください。
漠然と引退後には最終所得と同等のお金は必要ないと思ってはいませんか?
スーツも新調しなくても済むし、職場の飲み会にも参加しなくてもよいから、仕事関連の出費は不要になります。
逆に料理や大工仕事など、今までお金を払っていた用事を自分で行う時間ができます。
安さを求めて少し遠くのスーパーまで出かけて買い物をしたり、ネットで割引クーポンを集めたりする時間のゆとりも生まれます。
余暇の過ごし方も引退後は変わってきます。
友人とゆっくりと過ごしたり、浜辺で夕日が沈むのを眺めたりするといった具合に、あり余る時間を活用して「お金で買えないもの」に投資する活動が増えてきます。
また、子どもたちが独り立ちをしていれば、計算上は世帯当たりの支出を約60%まで減らしても生活水準を落とさずに済みます。
このように考えると、何となく生活できるのではないかと思うかもしれません。
しかし、長寿化によって若々しく生きる期間が長くなるとはいえ、医療や介護などの費用は年をとるとともに増えてくることは認識しておかなくてはなりません。
また、子どもの結婚費用や孫の学費を支払ったり、家や車の購入費用の一部を支援したりすることも想定しておいたほうがよいでしょう。
要するに仕事関連の出費がなくなったとしても、それ以外の出費が膨らむ可能性は十分にあるのです。
検討すべきことは、将来の老後資金と消費行動だけではなく、現在の消費行動も無視できない要素なのです。
高い消費レベルが身に沁みすいている人ほど、引退後、消費レベルを落とすことは難しいといわれています。
消費を通じた満足度の度合いは、現在の消費レベルの絶対値より、過去の消費レベルとの相対値に大きく左右されることが多くの研究から分かっています。
したがって、いま支出を抑えることは、貯蓄のためだけでなく、堅実な消費パターンを身につけ、引退後に少ないお金で満足感を得やすくする効果もあるということでもあるのです。
また、マイホームの資産価値を当てにするのも、慎重であったほうがよいでしょう。
マイホームは有形の資産の中でも銀行預金や株式などと比べて特殊な性格を持っています。
生活資金を調達で、銀行預金の取り崩しや株式の売却をする場合は、生活水準を落とさずにできるが、マイホームを売って狭い家に引っ越す場合は、住環境の面で生活水準が下がってしまいます。
現実的には、マイホームを引退後の資金として考えている人はほとんどなく、パートナーの死や病気などのアクシデントがあったときでしかマイホームを売るような事態にはならないでしょう。
マイホームを売るのではなく、担保にして生活資金を借り入れる方法もありますが、そもそもマイホームを手に入れるためには、生涯を通して多くのお金を貯めなければ実現ができないほど、ハードルが高いものなのです。
資金計画を立てる際は、マイホームの資産価値を当てにせず、「いざというときの備え」程度に考えておいた方が無難です。
将来の資金調達を考えるにあたり、投資で賄う方法があります。
投資利益率を高めれば、貯蓄に回すお金を少なくすることができますが、一般的に高利回りは大きなリスクを伴うため、このような投資をすれば、10%を超えるような投資利益率を得ることもあれば、損をする可能性もあります。
運頼みの資金計画はメインで立てるべきではありません。
要するに、引退後に最終所得の50%程度のお金があれば生活していけると楽観視するのも
マイホームの資産価値を当てにして売却するのも、大きなリスクをとるような投資を行うのも、人生100年時代の人生設計においては決して賢明な手段であるとはいえません。
大切なことは、お金の現実を直視することであり、そのうえで、お金の問題を解決するために、お金に関して自信を持ち、お金に関して自ら取り組んで、貯蓄を増やすことが求められます。
お金に関して自信を持つこと
お金に関して自信を持つためには、お金に関する知識・判断力(金融リテラシー)が必要です。
人生100年時代の生活を支えるためには、仕事関係の知識と同じように、金融に関する知識も本格的に学ぶ必要があります。
ある調査機関によると、金融知識のある投資家は、そうでない投資家に比べて年間約1.3%多くの利益を得ている調査結果があります。
100万円を10年間投資した場合、約16万円の利益の差を生み、20年なら約42万円、30年なら約84万円、40年なら約145万円に膨れ上がります。
小さな差でも年数を重ねれば、大きな差を生み出すのです。
金融リテラシーのレベルが高くないと感じているならば、金融関連の書籍を読んでみることをオススメします。
あるいは、オンライン講座やセミナーの類いがたくさん用意されているので利用するのもよいでしょう。
金融セミナーの参加者は、金融に関して行動を起こし、投資成績と資金計画が良好である確率が明らかに高いという調査結果が多くの調査機関によって公表されています。
金融リテラシーを高めるためには、経験を積むことが最善の方法なのです。
しかしながら、金融リテラシーが高まると、投資でお金を増やすのは簡単なことではないことも分かってきます。
セミナーの講師に投資に関するアドバイスを求めても、返ってくる答えは一般原則だけですが、多くの人が陥りがちな過ちを指摘することはできるのです。
過ちを回避するために、堅実な投資を目指す多くの人は次の3つのことを実践しています。
・リスク分散のために投資対象を分散させて、ファンドの運営会社もいくつかに分けている
・高齢になると損失を取り返す時間がないことをよく理解していて、引退が近づくとポートフォリオのリスクを減らし始める
・資金計画を立てるとき、資産の市場価値を最大化させることよりも、引退後に安定した収入を確保することを重んじる
お金に関して自ら取り組むこと
金融に関して学び、自分ならできるという自信を持つことができたら、次に必要になるのは自ら取り組むという認識です。
しかし、この取り組みは簡単ではありません。
ダイエットに取り組むことを例にすると、分かると思いますが、ダイエットのために運動や食事の節制など、取り組むべき事項が分かっていて、それを実行に移すつもりはあるのに、実際はそのとおりに行動しない。
多くの人がセルフコントロールに苦労しているのです。
今後も長寿化が進むと、セルフコントロールの失敗が生むコストは一層膨らむので、いかにして現在の行動と未来のニーズのバランスを取るかがポイントになります。
人生100年時代を充実したものにするためにはセルフコントロールがとても重要になってくるのです。
貯蓄とは消費を延期することによって、現在から未来へお金を移すことです。
これを実行しようにも目の前においしそうなスイーツや待ち望んでいた新作の服やカバンがあるとしたら、「来月の給料からしっかり貯蓄しよう」と心の中で誓い、買ってしまうでしょう。
心の中でそう誓いながらも、毎回のように繰り返し「貯蓄の問題」を先送りにしているのです。
セルフコントロールがとても重要なのは分かっていますが、これを克服するのは簡単ではありません。
まずは、未来の自分に責任を持てるのは自分しかいないことを肝に銘じましょう。
将来の資金計画を立てるとき、それは自分の計画だと感じにくいが、たとえば、75歳になった自分がいま隣に座っていると想像してみましょう。
75歳のあなたは、いまのあなたがどのような点を尊重することを望むのでしょうか。
また、お金に関する決定を自動化して、目先の満足を得る機会を減らす方法も効果的です。
たとえば、毎月一定の金額を銀行の普通預金から定期預金に移すというような方法です。
いったん貯蓄のプランを決めてしまえば、多くの人は現状維持のバイアスに陥ってそのまま放置するので、計画通りに貯蓄が行われるようになるのです。
そして、40代後半から50代半ばの人であれば、いますぐに金融リテラシーを高めるための行動をとりましょう。
ある研究によるとお金に関する分析能力が最も高いのは、40代後半から50代半ばで、50歳以降になると分析能力は目を見張るほど一方的に落ち込むという研究結果があります。
当然、すべての人に当てはまるわけではありませんが、お金に関する良質な判断は、経験および知識、そして分析能力という二つの要素に軸足が置かれます。
若者は明晰な分析能力を持ちますが、金融商品に関する経験と知識が乏しく、一方、年配者年は、経験と知識は豊富ですが、分析能力は減退し始めています。
したがって、判断能力が最も充実している中年期の時点で将来の資金計画を立てるのは理にかなっているのです。
老後の資金はいったいいくら必要なのか
長寿化と聞くと多くの人が不安になってしまいます。
一番の心配の種は、老後の生活資金で、どんなに慎ましく暮らしたとしても、生きていくにはどうしてもお金が必要になります。
厚生労働省が2019年に「老後の資金に2,000万円が必要」と発表して以来、多くの人が老後の資金に関心を持つようになりました。
この発表を聞いて、本当に2,000万円も必要なのか、それとも、実際はもっと必要になるのではないのかと疑問に思う人もいることでしょう。
このように考えてしまうのは、自分が何歳まで生きるのか本当のところ分からないし、老年になってどのような生活をしているのか具体的に想像しづらく、遠い先のことを考えるのに不確定要素が多すぎる点にあります。
とはいえ、ただ不安に思っているだけで何もしていないのでは解決することはできません。
金銭面における不確定要素を暫定的に確定させて、おおよその目安を確認しておくとよいでしょう。
人によって思い描く未来は異なるし、どんな老後を過ごしたいのか、何歳まで働きたいのか。
退職後は趣味を存分に楽しみたい人やボランティアなどで社会貢献をしたい人など、さまざまな生き方があります。
また、どのような働き方をしてきたのか、どのくらいの貯蓄をしているのかなども人によりさまざまで、個人の希望や状況により結論が大きく左右されるのが老後の生活資金です。
長寿化時代にあった生き方とは?
この先、長寿化により老後の資金は2,000万円でも不十分になっていくことでしょう。
ほとんどの人は今までかなり長く働かなくては老後の資金の確保は難しいものになります。
割賦方式の公的年金制度は持続困難になり、ほとんど当てにならない状況になるでしょう。
金銭面での苦労を強いられる老後を送るのか、それとも長く働き続けて懸命に貯蓄に励むのか・・・。
お先真っ暗で、いかにも疲れ切った人生を想像させてしまいます。
こう考えてしまうのは従来の生き方をベースにすると、変化のない勤労生活を長く送るものと決めつけているからなのです。
人生が短かった時代は「教育(専門学校・大学)→仕事(勤労)→引退(老後)」という生き方で問題なかったのですが、寿命が延びれば、「仕事」の期間を長くしないと生き抜くことができません。
「仕事」の期間を長くすることについては雇用環境の変化も考えておく必要があります。
今後、新しいテクノロジーが登場し、成長する産業と衰退する産業が出てきます。
それに伴い、新しい職種が生まれ、既存の職種にとって代わるのです。
労働市場の変化に対応するために新しいスキルの習得に投資して、新しいテクノロジーを受け入れることも必要になることでしょう。
一人ひとりがこの先の未来について、じっくりと考えていかなければなりません。
従来の価値観では、人生100年時代を生き抜くことができない以上、これは乗り越えなくてはならない試練なのです。
一方で、長寿化は既存の生き方に縛られず、自由に生きるチャンスもでもあります。
「長い人生を、どう生きるか」という課題を前に、どのように時間を使い、どのように人生を組み立てるのかは人それぞれなのです。
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